「罪悪深重煩悩熾盛」とは、私が当たり前に見ている世界のことだった。もっと罪深く、どす黒いものだと思っていたが、実に透明な、ありのままの、静かな世界だった。先日まで真っ赤に染まっていたハナミズキの葉が、いまはすべて落葉し、枝だけになっている。それが、そのままに、そのように見えている景色そのものが、「罪悪深重煩悩熾盛」の眼に映っている世界だった。あまりに無色透明な景色なので、まさかそんなものが関わっていたとは思わなかった。ただ、それ抜きには、私は景色を、そして世界を受け取ることはできない。それがそのままに、そのように見えている。それを成り立たせている器官が「罪悪深重煩悩熾盛」だった。世界を、そして景色をむさぼろうとする器官なしに、私は世界と関わることはできなかった。私は世界を、そして景色をただ無色透明には見ていなかった。むさぼろうとすることを抜きにしては、世界は世界として成り立たなかったのだ。世界は、黙って見られたままになっているから、まさかそんな罪深いことをしているとは思ってもみなかった。まったく、なんということだろうか。