近頃「利他」ということをよく目にするが、「利他」とは、生きとし生けるものの本来性である。つまり、生きているということは、関係性を抜きにしては成り立たないということだ。関係性は、右(自分)から見れば「自利」であり、左(他者)から見れば「利他」である。自分が仕事をするということは、「自利」であり、自分の利益になるが、それにとどまらず「利他」、それは当然、他者に影響を与えることになる。
人間は呼吸をする。呼吸とは吸った酸素を体外に排出することだ。しかし、排出されたものは窒素と酸素と炭素などが混じっている。なかでも炭素は植物にとっては必要はもので、これがないと植物は生きていけない。つまり、私が呼吸をすることは「自利」だが、排出することは「利他」である。人間は動物であり、運動していないと生存できない。この運動は「自利」の側面と「利他」の側面が一体になっている。
しかし、近頃の「利他」とは、人間が他者に働きかけるという関心、文脈で、問題になっているらしい。まあ、表層のことなら、それもよしとは思うが、深層では、本来的に、「自利」と「利他」は、人間が生きるという場合の運動の両側面なのである。